Web2.0、Industry3.0のような数字で世代交代を付けたバズワードのはやりは終わって、なんでもBy Designをつければよいという時代に動いたと思っていたのですが、Web3.0としてBlockchain Evolutionによりユーザーに提供されるアプリケーションのリストが出回ってますね。そして、聞いたことはあってもほとんど試していないというものばかり。
テクノロジーが大きな変化をもたらす
テクノロジーの進歩が多くの領域で進んでおり、さらに人工知能とロボットなどが相互補完しながら大きな変化を起こそうとしています。その中でもブロックチェーンの与える影響が金融や実証実験から、ユーザーが利用するサービスへと拡大しています。
ブロックチェーンにより塗り替えられるWeb3.0の世界
ブロックチェーンが適用される領域は金融サービスからスタートしていますが、それ以外の領域へも着実に広がっています。それに合わせて、実証実験やスタートアップがブロックチェーンを活用したサービスの開発をすすめています。
2017年末からWeb2.0とWeb3.0の比較としてブロックチェーンを活用したサービスを比較する画像が出回りだしました。画像はいろいろなパターンがあるのですが、ブラウザからネット上のサービスまで網羅的なものは以下のものになります。Brave, Storej、Signalなど多くのアプリケーションが並んでいます。どのアプリケーションも暗号化やブロックチェーンの仕組みで既存のサービスに付加価値をつけようとしているものです。
ケンブリッジ・アナリティクス社がフェースブックから大量の個人情報を収集していたように、Web2.0の世界ではプラットフォームが大量のデータを収集・蓄積をして、それを元にターゲットされた広告などでユーザーが作ったコンテンツをもとに巨大な収益をあげています。
ブロックチェーンに象徴される分散化・非セントラルの考えは、プラットフォームがデータを抱え込むのではなく、分散保存・管理されることや収益を還元することを意図しているようで、このようなアプリケーションをWeb3.0と分類しているようです。
個人的にはサービスを提供するプラットフォームが、そのプラットフォーム上で生成されたコンテンツや個人情報を利用して、サービスを提供する対価として収益をあげることは妥当だと思います。一方で、ケンブリッジ・アナリティクスや一部のマーケティングサービスの会社がフェースブックで行っていたような、あるプロファイルのクラスターは3名以上の友達が大統領候補を賛美すると流される、戸建の家に住んでいる人は2週間以内に2名以上が大型の液晶テレビを買ったら自分も購入する確率が高いなどの分析をして、広告をピンポイントで出していくというのは、思考誘導であり妥当なデータの利用方法とは思えません。
同時に、アップルのティム・クックがフェースブックが広告主にあれほど詳細なターゲットのプロファイルを提供できているのは、情報を収集・分析しすぎだと評したように、自分の情報をある程度コントロールできるようにすることは必要になってきており、Web2.0で巨大な収益を上げた企業はその果実から離れらることが難しいため、3.0のサービスが期待されているということのようです。
Web3.0と言われるサービス
自分でも勉強が足らずWeb3.0と分類されるサービスで実際に利用してみたのはEssential One程度という状態で、まずどんなサービスで先行サービスとどう違うのか確認してみます。
ブラウザ:Brave
現在圧倒的なシェアを獲得しているのはGoogleのChromeブラウザです。マイクロソフトのInternet Explorerよりもウェブの基準に適合したサービスを軽快に機能するアプリケーションとして拡大しました。一方で、Googleのユーザーとしてサインアップしてもらうことで検索を中心にデータを収集していることでも知られています。そこに登場したのがBraveです。
Braveはより軽快な体験を提供するとともに、広告をブロックしたり、ユーザーのデータを収集するためのトラッキングを防止する仕組みを持ったブラウザです。2015年のローンチ時は、サイトが表示している広告をブロックし、そのかわりにBraveが控えめな広告を表示し、その収益をウェブサイト、広告会社、Braveおよびユーザーが共有するという仕組みを提供していました。このモデルには批判も多かったのですが、ブロックチェーンを利用することで、広告モデルではない仕組みを提供しようという取り組みを始めています。
ブロックチェーンの技術は、BraveはBAT(Basic Attention Token)という独自の通貨を持っており、BATを利用してユーザーが見ているウェブサイトやコンテンツに対して報酬を簡単に支払う仕組みが提供されているということです。Braveをダウンロードして登録すると、一定額のBATが配布され、それを報酬としてウェブサイトやYouTubeのコンテンツを作っている人に投げ銭(寄付)として提供できるという仕組みです。投げ銭の仕組みが機能するのかは疑問符もあるのですが、広告に依存しないモデルを模索しているということかと思います。
スピードに関しては広告をブロックしていることよりも、機能が限定されているからというだけのようで、ChromeやFirefox並の拡張機能が実装されればスピードの優位性はなくなると思われます。
ストレージ:Storej・IPFS
DropboxやGoogle Driveなどオンラインストレージをクラウド上で提供するサービスは一般的になっています。Dropboxは個人向けでの収益化よりもB2B、Google Driveは個人向けのサービス、さらにマイクロソフトが提供するOffice365でオンラインストレージが用意されているなどクラウド上のサービスはサブスクリプション型のビジネスとして確立しています。
この領域にブロックチェーンを適用しているサービスはいくつかあるのですが、一時期違法ソフトウェアの共有に使われたP2Pのようにユーザーのハードディスクに保存されるようなサービスもあります。一方で、セントラルで管理されているDropboxのようなサービスではないものの、完全にユーザーレベルに分散するのではなく、信頼できる第3者と共同で管理をしていくという仕組みです。その代表格がStorej(ストレージと読みます)です。
Storejや類似サービスの特徴は、暗号化、ハッシュによるファイル書き換えの防止、分散保管による冗長性の確保という3点となります。
暗号化と分散保存
は、ファイルを断片化して暗号化した後に複数のサーバーに保存されます。断片化されたファイルの保存場所はブロックチェーンに記録されるので、ブロックチェーンをキーにしてファイルを読み出したり書き込んだりということがされます。
保存されるサーバーのひとつとしてスペースを提供した場合には、その貢献したスペースによって暗号通貨により収益を得ることができるなど収益還元の仕組みがあります。
ハッシュによりファイル書き換えの防止
ファイルを補完するスペーを持っているオーナーが書き換えなど悪意のある行為をしないようにするために、ビットコインと同じようにファイルが書き換えられていないのかハッシュによる検証をすることでファイルの安全性をたかめています。
冗長性の確保
分散保存をすることのデメリットに、一部の暗号化されたファイルが保存されているPC・サーバーが停止してしまうとファイルを読み出せなくなってしまうということがあります。対策として、断片化・暗号化されたファイルを複数のサーバーに保存し、プライマリーのサーバーが停止していた場合にはセカンダリーのファイルを読み出すという仕組みが用意されています。
Storejの利用体験記がありましたが、他のサービスに比べて収集できる情報のハードルが高いのでプライバシーへの問題はそれほど大きくなさそうなこと。同時に、最終的には巨大なサーバーセンターでコストを減らした方が電気の効率的な利用という面でも良いのではと思います。この分野は既存のプレイヤーが、ブロックチェーンを活用した高い安全性・改鼠が難しいサービスへと発展させていくことになるのではと思います。そこでIPFS(InterPlanetary File System)といったファイル管理のプロトコルとEthruimの組み合わせによるサービスの整備が進んでいます。
オンライン電話・会議:Experty
マイクロソフトのSkype、シスコのWebEXなどビジネス向けのビデオ会議のアプリケーションも安定して利用できるようになっています。このようなオンラインでの電話・会議の仕組みにブロックチェーンの仕組みを取り入れているのがExpertyです。
他のソリューションが既存のサービスの置き換えを目指しているの対して、Expertyはブロックチェーンを活用することで付加価値をつけるというモデルです。さまざまな領域の専門家が世界中にいますが、個人情報・電話番号やスカイプIDを知らせずに連絡をする方法となるとなかなかなく、QuoraのようなQ&Aサイトで広く情報を集めるか、専門家へのインタビューサービスを利用することとなります。専門家へのインタビューを行っている会社は何社かありますが、調整・段取りに時間がかかることや1時間500−600ドルと高いコストがかかります。
Expertyは各領域の専門家と情報を求める人をつなぐ仕組みで、アプリを通じて会話をすることで情報を守ることが可能となります。料金の支払いも暗号通貨とスマートコントラクトをもとに迅速に行われます。ExpertyはINCでも注目サービスに選出されており、サービスとアプリケーションが融合したサービスとして期待されています。
オペレーティングシステム:Essentia, EOS
オペレーティングシステムは、MS-DOS、Windowsの時代からLinux、そしてモバイルの時代にあわせてアップルのiOS, グーグルのAndroidとChrome OSがスマートフォンのスタンダードなOSとしての地位を確立しました。この背景にはタッチスクリーン、小さな画面での利用や常にオンラインであることなどがトラディショナルなOSとの違いということになります。
ここでWeb3.0時代のOSとして紹介されているEssentia, EOSは、iOSのようなユーザーが利用するOSというよりも、もう少し下位のレイヤーで機能するブロックチェーンの仕組みを活用したアプリケーション向けのフレームワークということになります。
具体的には、ビットコインの存在が一般的になり、Etheriumなど数々の暗号通貨が開始されるとともに、上記のExperty、Storejなど暗号通貨をユーザー間で価値を交換する仕組みとして活用するようになると、複数の暗号通貨・仮想通貨を一元管理できる仕組みがないと、ユーザーは個別に各暗号通貨が使えるようにサインアップ・登録が必要となってしまいます。そこで、すべての暗号通貨を利用できるようなブロックチェーン管理機能を提供するというのが、Web3.0で紹介されているオペレーティングシステムということになります。
比較画像ではEOSが紹介されていますが、その後ICOのゴタゴタや開発が滞っているということを考えると、Essential.Oneから名前を変えたEssentiaと同時に、複数の企業が暗号通貨をサービスする基盤として利用することを検討してコンソーシアムを作っているEtheriumが有望ということになると思います。
ソーシャル:SteemIt、Akasha
Facebook、Twitter、Instagram、Snapchat、Linkedinなどサービスを提供する会社が中央のサーバーで一括して情報を管理する仕組みのソーシャルネットワークを分散管理するというアプローチと、ブロックチェーンの仕組みを使ってプラットフォームだけでなくコンテンツを作ったユーザーも報酬を得られる仕組みを用意したという2つ方向があります。
全社がマストドンとブロックチェーンを統合したサービスを提供していたHivewayなどですが、サービスのインスタンス自体が分散してしまうとユーザーが集まらずエコシステムとして機能しないようで次々とサービスを終了しています。一方で、ソーシャルネットワークを通じて収集した情報やユーザーが作ったコンテンツで生じたお金を報酬としてユーザーにも暗号通貨を通じて共有するという仕組みの代表がSteemitやAkashaということになります。
どちらもシンプルなブログに投げ銭機能がついているという意味だと、FacebookやInstagramよりも「はてな」のような存在です。
正直、Web3.0と呼称するには少し弱い気がしまして・・・Instagramを買収し、Snapchatの機能を恥も外聞もなくコピーしてサービスを維持するFacebookの存在を考えると、Instagramにブロックチェーンの仕組みを今後搭載していくのではと思います。
メッセージ:Status, Signal
What’s up、Facebook Messengerのようなシンプルなメッセージングツールから、LINEやWeChatのようにメッセージからスタートしてスタンプ市場、ミュージック、ソーシャル、決済、保険など金融機能など様々な機能を内包していったアプリがあります。
Statusは、WeChatとLineをブロックチェーンのプラットフォームであるイーサリアムを利用して作ったらどうなるのかということをそのまま実装したアプリです。Status独自の暗号通貨を利用して決済や金融を実現できる他、スタンプの販売などもブロックチェーン上の暗号通貨で実現されます。
一方で、SignalはよりシンプルなMessengerツールを目指しているようで、モバイルに標準のSMSやWhat’s upよりも暗号化による強力な安全性を提供していく方針のようです。
まとめ
Web3.0はブロックチェーンを活用することで、個人情報のオーナーシップを個人が取り戻すという方向性のため、ユーザーとして利用するサービスのレベルとしてはそれほど大きな変化が見られないと思っていまいた。実際、ソーシャルメディアやメッセージアプリでは、機能としては全く変わらないという少しさみしい状況です。
一方で、ブラウザ、ビデオ会議などの分野ではユーザーエクスペリエンスが変わる取り組みがされています。Essentiaのような基盤が整備されていくことで、ユーザーレイヤーのサービスがソーシャルメディアなど他の領域でも進むのではと期待できます。
誰でも簡易に情報発信できる環境を提供したWeb2.0がHadoopのようなNoSQLのような技術に支えられていったように、Web3.0は基盤技術が先行しているという状態なのかもしれません。
アプリケーションレイヤーを作り込む前に、ICOで儲けて足抜けしてしまうような例も出てきているので、暗号通貨が投機対象として機能してしまうことでサービスの発展を阻害しているという部分もあるのかもしれませんね。