LTV(顧客生涯価値)は、CRMが一般的になるとともに、マーケティングを行う上で一般的な概念となっています。同一顧客の継続的な購買やクロスセル・アップセルを行うことでマーケティングによる顧客獲得と利益の最大化を行うためにLTVを算出し、それを最大化する方法を検討することになります。重要な指標ということはわかりながらも、LTVを算出していないという場合が多いのではないでしょうか。
同時にLTV(顧客生涯価値)の計算式で算出した数字は、現実を正しく反映していないと批判されることがあります。LTVをより精緻に理解するための正しいLTVの計算式と計算のためのエクセル・テンプレートを提供します。
LTV(顧客生涯価値)とは?
LTV(顧客生涯価値)は顧客がその企業やブランドから離反するまでに貢献する平均利益のことです。多く企業が商品の販売を中心としたアプローチから、顧客を中心としたアプローチへとシフトしていることから重要性が高まっています。
LTVは平均利益の粗い将来予測なので、確実な数字ではありません。ただし、合理的な想定を行うことは、正しいアクションを行う可能性を高めてくれます。つまり、LTVを最大にするために、顧客ニーズに合った商品・サービスを、新規顧客や顧客維持のコストを下げながら、継続的に利益をあげるアクションを促すことができます。
日本ではLTVを一人の顧客が購入する累積売上高と説明している場合がありますが、LTVは単なる累積売上高ではありません、顧客あたり平均利益です。
顧客獲得にかかった費用、顧客が継続してブランドを購入する率を考慮するLTVを算出し正しく把握することで、新規顧客獲得のためのマーケティング費用や顧客を維持するための既存顧客へのプロモーション費用を最適化することができる指標です。
一般的なLTVの計算方法
LTVを算出するには、顧客一人あたりが貢献する利益を、顧客を獲得・維持するために投下する費用で割ることで求められます。
LTV = (平均購買単価)x(年間平均購買頻度)x(粗利率)/(年間離反率)
たとえば、以下の場合のLTVを求めてみます。
平均購買単価 | 2,000円 |
平均年間購買頻度 | 4回 |
粗利率 | 70% |
顧客維持率 | 85% |
新規顧客獲得費用 | 15,000円 |
LTV = 2,000 x 4 x 70% / (1-85%) = 37,333円
この時に、新規顧客獲得に1.5万円かけていた場合には、2.67年の継続期間が必要になります。
回収期間 = 15,000 / (2000 x 4 x 70%) = 2.67年
したがって、LTVを最大化もしくは回収期間を最低限にするためには、以下の4点を意識する必要があります。
- 平均購買単価をあげる
- 購買頻度をあげる
- 継続期間を長くする・離反率を下げる
- 新規顧客獲得コストを最小化する
LTVを算出する意味と活用方法
LTVを計算するのは正しいアクションを取るためです。LTVを利用することで、新規顧客にかける費用を最適化する、顧客維持のための期間を想定できます。
新規顧客獲得費用の最適化
LTVを利用することで、いくら新規顧客獲得にコストをかけられるのか計算することができます。 新規顧客獲得費用が「1.5万円」をかけて年間平均「8000円」の利益をもたらしてくれる顧客の単年度ROIは「0.53」なので投資対効果は見込めない。ただし、顧客の「85%」が「2.7年」継続して購買してくれれば回収でき、「2.7年」を超えると利益となる。ということが計算できます。
LTVを利用しない場合、ROIが1を超える投資のみを行うため充分な投資ができません。単年度や1回あたりの購買ではなく、顧客とブランドの長期的な関係のなかで利益をあげることを前提とすることで、最適な投資を行うことができます。
獲得費用を回収するまでの期間の設定
長期的な顧客との関係を想定する場合も、できるだけ早く投資と収益がブレークイーブンになり、利益を生み出すことが理想です。LTVを計算することで、投下するマーケティング費用が回収できるまでの期間を想定することが可能となります。結果として、どの程度の期間顧客を維持しなければならないのか設定することができます。
チャネルや顧客別の投資判断
ファッション業界など、定価販売を行う正規店とディスカウントされた値段で売るアウトレットがチャネルとして混在している場合、当然フルプライスで販売できるチャネルで獲得した顧客の方が価値が高いです。
そこで、どの程度フルプライス顧客の価値が高いのか、いくらマーケティング費用に差をつけるべきなのかということは、それぞれのLTVを算出することで算出することができます。
チャネルだけでなく、地域や販売方法などによって違う顧客価値を横並びで比較するためにはLTVは効果的な指標です。
顧客の現在価値を想定したLTV
LTVは顧客の生涯価値という中長期の価値に注目しています。
日本のような成熟市場の場合は、大きく顧客数を増やすことは難しいため、ひとりあたりの利益を拡大することは正しい考え方です。そのために、顧客に他の商品を売る(クロスセル)、より高級な商品を売る(アップセル)をすることがLTVの最大化となります。
しかし、シンプルなLTVのモデルでは当然行うべきクロスセル・アップセルが要素として検討されておらず、LTVが低く算出されてしまいます。
一方で、将来的に発生する利益と、現在投資する手元の現金は同じ価値ではありません。そのため将来の利益を現在の価値にディスカウントする必要があり、シンプルなLTVは高く算出されてしまっていると考えられます。
そこで、いくつかの要素を足すことで本当の顧客価値を算出し、正しい投資対効果を理解するとともに、クロスセル・アップセルによる利益最大化をどの程度しなければいけないのか算出することができます。
正しいLTV算出の例
具体的に追加する要素は、将来利益の現在価値を算出するためのディスカウントレートと、離反しなかった顧客へアップセル・クロスセルにより上昇する平均年間購入額の率になります。
平均購買単価 | 2,000円 |
平均年間購買頻度 | 4回 |
粗利率 | 70% |
顧客維持率 | 85% |
新規顧客獲得費用 | 15,000円 |
ディスカウントレート | 10% |
平均年間購入額上昇率 | 102% |
2つの要素を追加することで求められるLTVは39,344円になります。
LTV | 37,333円 |
本当のLTV | 39,344円 |
このケースではアップセル・クロスセルによる利益貢献を2%と限定的にしていますが、それでもLTVには大きな変化があります。ひとつの商品しかない場合にはシンプルなLTVでも十分ですが、商品ラインアップが揃っている場合には本当のLTVを算出しなければ正しい投資判断をすることはできません。
このモデルを利用することで、まずは安価な商品からスタートしてプレミアムラインへと誘導するなど、本来のCRM・顧客管理のためのアクションを検討することができます。
- 平均購買単価をあげる
- クロスセル・アップセルにより平均購買単価をあげる
- 購買頻度をあげる
- 継続期間を長くする・離反率を下げる
- 新規顧客獲得コストを最小化する
正しいLTVの算出式は、文字で書くと少し複雑なので以下のテンプレートをダウンロードして算出式を確認してみてください。実際の数字で考えるとそれほど複雑ではありませんので。
エクセル・テンプレート
エクセルのテンプレートは、[icon name=”file-excel-o” class=”” unprefixed_class=””]こちらよりダウンロードできます。一般的なLTVと本当のLTVを両方算出することができるテンプレートになります。
とてもシンプルなものですし、ロックもかかっていませんので、必要に応じて顧客維持のためのコストなど必要な数字や数式を追加して使ってください。
その他の指標
LTVは顧客価値に注目したものですが、マーケットのサイズを把握するためにはTAMを利用します。LTVとTAMはどちらも事業計画では必須の数字です。