アメリカのテクノロジー関連の調査会社のガイトナーが毎年発表しているメガトレンドの2017年版を発表しました(日本語訳記事)。このレポートでは、ハイパーサイクルと呼ぶテクノロジーがイノベーションの萌芽から話題になり生活の中に組み込まれていくまでの流れをプロットすることで、次の10年間に来るテクノロジーのトレンドを紹介するものです。
年末に調査会社や新聞・雑誌が出す翌年を予測するレポートや記事に比べると、技術の適用の進捗を元にしているため、比較的あたる予測だと思います。技術的な進化が、ビジネスに与える影響や成長の可能性を想定するために参考になるレポートです。
Source: Gartner (July 2017)
今回、2017年版で注目するべき領域が3つ選定されています。
- Artificial Intelligence Everywhere (全てにAI)
- Transparently Immersive Experience(透過的没入体験)
- Digital Platform(デジタルプラットフォーム)
の3点を注目のトレンドと報告しています。それにしても、元が英語なのでカタカナ用語と文句をつけるわけにはいかないものの、レポート全てが業界用語ばかりですね。テッキーな人は全てこの手の用語がわかるのか・・・と感心しながら、僕の頭ではこの時点で焼ききれそうです!とはいえ、詳細を読んでいきます。
AI Everywhere (全てにAI)
AIは将棋の電王戦や先日のNHKのお粗末な特集を引き出すまでもなく、ホットなキーワードです。加えて、今年の決算報告では多くの会社の中期計画書にAIを導入して云々という文字が躍りました。
ガートナーはAIを次の10年間で最も破壊的な技術だとしています。コンピューターの処理能力向上、終わりなく増えるデータ、ニューラルネットワークの革新などの技術進化が、これまで解かれなかった問題に対応出来る環境を用意するとしています。
具体的な要素技術としては、
- 深層学習 Deep Learning
- 深層強化学習 Deep Enforcement Learning
- 汎用人工知能 Artificial General Intelligence
- 自動運転自動車 Autonomous Vehicle
- コグニティブ・コンピューティング Cognitive Computing
- 商用UAV(ドローン) Commercial UAV (Drone)
- 会話型ユーザーインタフェース Conversational User Interface
- 企業向け分類・存在マネージメント Enterprise Taxonomy & Ontology Management
- マシンラーニング Machine Learning
- 賢い塵 Smart Dust
- スマートロボット Smart Robot
- スマートオフィス Smart Workspace
さらに、知らないカタカナ用語と聞いたことがないキーワードがたくさん出てきました・・・くじけそうです。知らない、理解が正しいか不安なキーワードについて良い機会ということで調べました。
深層強化学習
強化学習というのは、ある状態を認識した後に、なんらかの行動を起こして、その結果の報酬を与えて、次の状態に移行するという流れの中で、報酬を最大化する方法。例えば、オセロの場合、現在の盤面が状態、どこかに石を置くのが行動、増えた石の結果の得点が報酬、結果の盤面が次の状態ということになります。この報酬を最大化するように機械が学習していきます。
この中で報酬が少しトリッキーで、行動の結果増えた減ったというその時の得点を報酬として逐次最大化するよりも、毎回自分のターンに最終的にゲームが終了した時の報酬を最大化した方がより良い効果が得られる場合があります。ただし、未来を報酬とすると想定すると検討するべき盤面が爆発的に多くなります。
深層強化学習とは、この報酬を数学的に求めた観測に当てはめることで、より良い結果を求めようというもの。碁の世界チャンピオンを破って有名になったGoogleのAlphaGoはこの方式をとることで、石の数が圧倒的に多く、想定される盤面が爆発的に多いという課題を、深層強化学習を利用いて解決したとのことです。わかったような、わからないような・・・・
汎用人工知能
AGIと呼ばれる汎用人工知能は、人間レベルの知能の実現を目指したもので、囲碁や自動運転など限定的な用途を想定したAIプロジェクト(特定型AI)と区別されています。人間の神経細胞や認知科学の知見を活用する方法、人間が成長する発達の仕組みを利用する方法などが検討されているようです。
コグニティブ・コンピューティング
コグニティブは日本語では認知と訳されます。自然言語を理解し、経験を通じて機械が学習し、相関関係から仮設を立て、予測をするコンピューター。正直、AIとの違いがわかりません。IBMの説明によると、コンピューターが人を代替することを目的としているのがAI、人が主体でコンピューターが支援するのがコグニティブ・コンピューティングということです。哲学の違いで技術基盤としては変わらないのではないかと思います。
商用UAV(ドローン)
UAVはUnmanned Air Vehicle無人航空機の略で、すっかりテレビでもおなじみになったドローンのことです。まったく知らなかったのですが、いくつかのカテゴリーにわけられているそうです。6つに分類されているのですが、そのうち5つが軍事用途を5つにわけて、残りは商用ということで、我々が関わるドローンはほとんど商用UAVということになります。
- ターゲット&デコイ:ミサイルの標的などのドローン
- 偵察ドローン:戦場の情報収集を目的としたドローン
- 戦闘ドローン:米軍のRQ-1など攻撃や爆撃を目的としたドローン
- 輸送ドローン:装備や人員の輸送を目的としたドローン
- R&Dドローン:研究開発用
- 商標ドローン:農業、空撮、データ収集など一般商用のドローン
現在のドローンは人間が操作するものがほとんどですが、ドローンに人工知能が搭載されることで商用ドローンは、今後活用される分野がさらに拡大すると言われています。
空撮やスポーツ中継では一般的になってきましたが、災害救助、橋や道路など建築物の点検、アマゾンや楽天がトライアルをしてニュースとなった配送、飛行船広告のように空を飛び回る広告などが利用用途が広がります。人工知能によって自動運転ができるようになれば、配送や定期点検にドローンを活用することが可能となります。ドローン広告のアイディは、ビルのオフィスを飛ばして、ターゲット企業の従業員に見てもらおうという話ですが、どうにも鬱陶しい世の中になりそう。というか企画段階で即禁止するべきでしょう。
同時に、現在は初期のパソコンや携帯電話のように、それぞれのメーカーがそれぞれのOSを使っており、複数のドローンや複数社製のドローンが連携をすることができませんが、流通などに使われることを考えると、同じ空域にいるドローン間で通信する必要がでてくるため、OSや通信手順の標準化が行われていくとのこと。こちらの覇権争いも、マイクロソフトやアンドロイドなどとともに、大きなビジネスになるだろうと予測されています。
企業向け分類・存在マネージメント Enterprise Taxonomy & Ontology Management
今回の予測の中で、まったく聞いたこともなかったのはEnterprise Taxonomy & Ontology Managementです。企業内で情報の管理を容易にする仕組みというのがざくっとした理解です。Enterprise Taxonomy ManagementとEnterprise Ontology Managementは研究者の間では違うものという認識があるようでして、困惑・・。
企業内の情報は、業界や企業によって使われる専門用語などがありますし、当然一般的な用語も使われています。現在、大量に存在する企業内の情報を検索するには、キーワードから全文検索をすることとなります。Taxonomy & Ontologyの考え方では、単語を樹形図としてつながりを理解していきます。たとえば、サッカーであれば、人間の活動>レジャー・娯楽>スポーツ>サッカーなどのように論理的な分類を作ることができます。このような樹形図を企業内の情報から構築することで、簡単で適切に情報を管理することができます。
同時に、私は外国企業経営者という文の「は」と、上司はむかつくの「は」では、同じ「は」でも、前者は機能を説明しようとしており、後者は態度を説明しています。このような文章内の単語の位置づけやあり方を認識して、分類に役立てていきます。
このように、キーワードやキーワードの頻度などから予測される文書や情報の分類や検索ではなく、樹形図化によるカテゴリー化や意味の理解により、より精度の高い情報整理と検索性を提供するのが、Enterprise Taxonomy & Ontology Managementとのことです。
正直、自分でもどこまでわかっているのかわかりませんが、単純に言うと、コンピューターで社内文書を調べると、山のように検索したキーワードに合致する書類がでてきますが、それがTaxonomy & Ontologyにより、より精度高く表示されるということです。
他のイノベーションに比べると、地味に聞こえます。ただし、これだけ作り出される情報が増え、個人が持つストレージの容量が増えている昨今の状況を考えると、これは大きな時間短縮になると思います。実際、企業のポータルサイトなどでもっとも手間になっているのは継続的に情報を更新して、整理することだとおもますので、これが自動化され、検索性が上がると大きな効率化になると思います。
賢い塵 Smart Dust
スマートダストというキーワードはほとんどの人が聞いたことがないと思うのですが、僕は業務で関係があった時期があり知っており。少し前に流行ったユビキタスコンピューターや現在で言うIOTの前進となる概念と記憶していました。なので、今更この言葉が掲載されてびっくりするとともに、なにか新しい定義になったのか調べました・・・まったく違うものでした。
カリフォルニア大学バークレー校(UCB)が発表した技術で、砂粒ほどの超小型のセンサーによって構築されるソリューションのことをスマートダストと言うそうです。この砂状のセンサーを使うことで、さまざまなことが可能になると言われています。たとえば、スマートダストを混ぜた建材でできた家であれば、温度・日照量・湿度などを部屋ごと場所ごとに検知をして、窓を開けたり締めたり、電気をつけたり消したりすることで、より効率的にエネルギーを使う(要するに節電)ができます。同じ考え方で、農場やバイオ農場などで利用することができます。
医療技術として、体内にスマートダストを適用することで、体の状態を器官別にモニターすることが可能となります。さらに言うと、モニターするだけでなく、電極で刺激を出すことができるスマートダストを脳に埋め込めば、体の各部をコントロールできます。
道路の素材にスマートダストが入ることで、監視カメラに頼らずに道路の状況を音センサーなどで把握して、交通量や信号の調整をすることができます。現在のサイズは、100立方メートル(1ミリリットルと同義なので、1グラム程度=1円玉程度)とまだ大きいものの、これを1立方メートル(耳かき1杯ぶん、塩10粒程度)まで縮小されていくとのこと。
まとめ(すべてがAIになる)
自分が思っている以上に、新技術について勉強が足りませんでした。
また、AIというひとつのキーワードの中にも、汎用人工知能のようにまだまだ未成熟な分野もあれば、ドローンや自動運転のようにすでに実用化が始まっているものが混ざっており、具体的な理解を進めることは重要だなと再認識しました。
注目が集まる未来についてのバズワードは、定義も明確でない場合も多く、英語の資料にあたりながら調べていくと、同じことを、いろいろな表現で読んでいくこととなります。アカデミック、雑誌記事、ブログやQ&Aなど、ひとつのことを複数の表現で理解すると、表現方法の勉強になるとともに、訳語として記憶するのではなく、概念をイメージとして記憶できるということでも良い英語学習かと思います。
次は、Transparently Immersive Experience(透過的没入体験)とDigital Platform(デジタルプラットフォーム)になります。