絶滅危惧種COOと役割が拡大するCFO

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CEOに次ぐNo2と見なされ、会社のビジネス・オペレーションに責任を持つとされてきたChief Operating Officer(‘COO’)を絶滅危惧種として指定しなければならない状態になっています。一方で、Chief Financial Officer(‘CFO’)の役割拡大が進んでいます。CEO, COO, CFOというセットから変わる現状と背景をまとめました。 

 

 

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減りゆくCOO

SP500の企業の内、2000年にCOOを設置していた会社は48%とほぼ過半数にのぼっていました。それが年々減り続け2014年には36%となっています。

COOを組織からなくした企業の中には、マクドナルドやツイッターなどの著名企業も含まれています。

COOを設置する企業数の推移(SP500)

number of coo at sp500

 

 

いまだに三分の一の会社はCOOを設置しているという意味では、引き続きCOOという役職に価値を見出す会社が多いとも言えます。実際、44%の会社の現在のCEOは元COOであることからもCOOが企業のNo2であり後継者とみなされていると考えらます。

ただし、現在のCEOがCOOから昇格した際に、COOを設置しなかったというケースが目立つというのがCOOが減る原因となっています。COOを設置しなかった理由としては、

CEOがビジネス運営に関わる時間と能力を持っている

フラットな組織への移行

サクセッションプラン(幹部引退後の次の人材計画)の変化

などが考えらます。それぞれについて少し詳しく検討してみよう。

 

CEOのマネージメント効率の向上

電子メール、ビデオカンファレンス、社内外のソーシャルメディアやポータルサイトなどデジタル・コミュニケーションのツールが発展したことで、CEOがひとり管理できる情報量が大きく増加しました。

1990年代まで3−5人だったCEOへのダイレクトレポートラインは、2010年代には平均10名程度と大きく増えていて、CEOがハンズオンで管理できる領域が拡大しました。

同時に、マネージメントダッシュボードが多くの企業で導入されることで、KPIがデスクトップですぐに表示されることで、ビジネス・オペレーションの状況をすぐに把握することができるようになった。結果、KPIを通してクイックにアクションを起こすことができるようになりました。

このような状況を背景にCOOが任命されなくなる中で、これまで同一人物が兼ねることが多かったChairmanとCEOを別の人物が占めることが多くなっています。

北米の大企業では、2001年に50%以上の会社でChairmanとCEOが同一人物であったが、2014年には11%まで低下。結果として、CEOはビジネス・オペレーションに集中し、ビジョンおよびボード・株主対応はChairmanが担当するという住み分けになりつつあります。

エンロンなどの詐欺事件2008年の金融危機などを通して、社外取締役の増加など株主や社会へのアカウンタビリティーがより強く求められるようになりました。

これまでであればCEOは取締役のトップとして報告を受ける側に座っていましたが、社外の中立的な取締役はCEOが直接会社を管理をして取締役会にCEOが直接説明することを求めるという結果になりました。つまり、説明する側になりました。

結果として、CEOがCOOに権限を移譲するということが困難になっており、この状態であればCOOを設置する必要がないという結論になっています。

 

フラットな組織の拡大

組織のフラット化と選択と集中もCOOの減少を引き起こしている要因だと考えられます。

多岐にわたるセクターをビジネスポートフォリオとしていた時代から、選択と集中が行われています。例えば製薬業では、製薬以外のビジネスを売却するどころか、医療用医薬品のみに集中し、OTC(一般医療用)をノンコアのビジネスとして切り出して、集中をすすめています。

結果的に、製品のポートフォリオは増えるものの、対象とするビジネスの領域やカテゴリーは減っているため、ビジネス領域が多かったころに必要であった領域別の副社長やCOOという管理者・監督者は必要なくなり、1つのリーダーシップチームが全社を管理するフラットな組織を実現することができるようになっています。

フラットな組織においてトップマネージメントも専門的になり、ハブ・アンド・スポークの仕組みを取るようになります。つまり、CEOがハブになり、CFO・CMO・CIO・CDOなど専門分野を持った上級幹部が、それぞれの領域の専門でCEOと協力してビジネスを遂行するという形です。

ここでハブにジェネラリストたるCEO・COOの2名がいると、情報共有や権限がわかりにくくなるためCOOを設置しない傾向を推し進めています。

 

サクセッションプラン(幹部引退後の次の人材計画)の変化

次のCEOとしてCOOを設置することが、上級幹部の成長を妨げる、もしくはリテインできないため、CEO以下にフラットな次のCEOを置くことで層の厚い上級幹部とその成長・切磋琢磨をボードが求めていることが一つの要因になっているようです。

SP500のような会社で有能なCFOを迎え入れようとすると、COOにレポートするというポジションは魅力的でない。専門領域のCxOで有能な人材を希求すればするほどCEOにダイレクトレポートが必要となってします。

同時にビジネスのグローバルへの拡大が進むと、本国以外のオペレーションが巨大になるとともに、リージョンオフィスが必要となってきます。その場合は、リージョンオフィスのCEO、巨大な子会社のCEOなどジェネラリストのポジションが多くなり、COOとしてCEOと一部重複したポジションよりも、責任・人材教育面などでも効果的となったことも影響している。

一方で、CEOの権限が集中するのにあわせて、CEOが主催する専門領域別のエグゼブティコミッティーという協議体を持つことで、COO機能がなくともCEOが協議体の実務リーダーに権限を移譲できるということが多くの企業で判明しています。

一部の会社では、COOとして独裁的な権限をもたせるよりも、協議体のリーダーを経験させるほうが、チームとして機能することをより意識する必要があり、結果として上級幹部としての能力開発が促進されるという考え方もある。

 

CFOの役割の拡大

COOが減少する中で、専門領域を持ったCxOにおいてCFOの役割拡大が進んでいると言われています。

CFOは伝統的には企業のボトムライン(利益)を創出することを管理する役職でした。一方で、CEOは本来ボードや株主に対して責任を持ちます。しかし、CEOの役割がより広い社会へ対応することが求められる中で、株主価値を維持・拡大するという株式会社の基本的な役割がCFOによって担保されるようになっているという傾向です。

このようなCFOの役割拡大のケースとしてはAppleが典型と言われており、ティム・クックは会社の顔として、ユーザーや開発会社のコミュニティへ相対しています。世界最大の株主価値を誇るAppleにおいて、株主と相対しているのはCFOのオッペンハイマーになっています。

そして、株主価値を最大化するという担務をかなえるためには、伝統的な利益の確保だけでなく、より広く企業価値を上げるための提携、投資価値を最大化するための事業ポートフォリオの管理などがCFOの役割となっています。

アメリカン・エクスプレス・オーストラリアが自社のCFOをフューチャーして変化するCFOという動画を作っており、よくまとまっています。英語の勉強代わりにちょうどいい長さとゆっくりとしたボイスオーバーなので、ぜひ見てみてください。

 

The Changing Role of the CFO

 

COOが必要となるケース

SP500企業の36%を占めるCOOを設置している会社にはそれぞれCOOを設置しなければいけない事情があるようです。

ひとつは強力な創業社長がCEOをしている、同族企業の場合などCEOの存在自体が強みであるとともに、リスクとなっている場合に、COOを設置し明確なNo2を置くことで、後継者を明示することが可能となる。

また、ターンアラウンドや主要な業種の変更など大きな企業変革をしなければならない環境にある場合、日々のオペレーションはCOOに移譲し、CEOは未来のためのビジネスや企業文化の変革に集中するという場合がある。

指名委員会が外部から業界経験のないCEOを連れてきた場合もCOOが設置されていることが多いようです。企業内のことをよく知っている人物が、経験のないCEOを補佐することで、既存勢力と改革勢力のバランスをとることを意図した場合になります。

 

まとめ

COOを設置する場合には漫然と慣例に沿うのではなく、明確な目的を持って設置していることが標準となりつつあります。

キャリアを構築する上で、CEO-COOといったジェネラリストを目指していくのではなく、専門領域をより意識したスペシャリスト+ジェネラリストという立ち位置が求められるのが、これからの大企業の標準になりそうです。

拡大を続けるCFOの役割については、The Chief Financial Officer: What CFOs Do, the Influence they Have, and Why it Mattersに新しいCFOのモデルが詳しいです。グローバルCFOの言葉や挑戦を共有しながら新しい役割を整理しているため、CFOを目指す方には参考になると思います。

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