スマートコントラクトの実証実験が日本を含む世界各地で行われています。現在の各国・各社の動きを俯瞰できないかということで整理してみました。
現在稼働しているスマートコントラクト実証実験
米国イリノイ州が公文書のブロックチェーン化という実証実験を開始したということをまとめてみました。
イリノイ州の例以外にも、多くの実証実験が民間でも行われています。その中でも、仮想通貨や仮想通貨の技術を使った金融ブロックチェーンプロジェクトではなく、スマートコントラクトを活用した社会実験はどの程度あるのだろうと調べてみました。
AIG, Standard Chartered, ABN, Allianz, Nephilaなど、想定通りスマートコントラクトは通貨以外でも金融の相性が良いようで保険での取り組みが目立ちます。ただし、実際に実施しているパイロットプログラムの中身を見ると、保険取引、不動産取引などバラエティに富んだ実験が行われているのが興味深いですね(これ以外にも多くの実験があると思います、優しく教えてください)。
国 | 実施者 | 対象 |
アメリカ | AIG、IBM、スタンダード・チャータード | 国際保健取引 |
アメリカ | アリアンツ、Nephila Capital | 保険取引 |
イギリス | Alice | 寄付(ホームレス支援) |
ドイツ | RWE | 充電ステーション |
日本 | KDDI、KDDI総合研究所、クーガー | 携帯電話の修理 |
スイス | FoodBlockchain.XYZ | 食品原材料取引 |
オランダ | ABN Amro | 不動産取引 |
インド | アーンドラ・プラデーシュ州 | 不動産登記 |
アメリカ | ファイザー、ジェネティック | 薬剤偽造防止 |
KDDIの実証実験は国内で多く報道されているので、海外の実証実験の中から面白そうなAIG, IBMやAliceの内容をみてみます。
AIG、IBM、スタンダード・チャータード
国際的な保険取引をブロックチェーンとスマートコントラクトで実施するという実証事件を行っています。ソリューションの基盤は、Linux FoundationのHyperledger Fabricが使われています。プロジェクトについては、3分ほどの短い動画としてまとまっています。
複数の国をまたがった複数の領域をカバーした保険商品をコーディネートすることは非常に複雑な作業です。そこで、イギリスの法制度に合致したマスターコントラクトをスマートコントラクトの形式で作成し、それをアメリカ、シンガポール、ケニアの3カ国の法制度へとアダプテーションするという仕組みです。スマートコントラクトによって、4カ国分の契約書がリアルタイムで共有できるようになったこと、それぞれの契約によってカバーされる内容、受けられるプレミアムなどを瞬時に共有できるようになりました。
同時に、スマートコントラクトの機能を利用することで、ある部分の請求が発生したなどイベントが発生した際に、関係者に自動的に連絡をする仕組みを提供することが可能です。なによりも、スマートコントラクトという共有の基盤を利用することで、AIGとスタンダード・チャータードだけでなく、彼らが契約しているブローカー、保険認証・公証人などの関係者も同じく仕組みの中で授権された範囲で参照したり、アラートを受け取ったりということができるとのこと。
プロジェクトの効果としてチームは以下の4点をあげています。
- ブロックチェーンとスマートコントラクトの高い透明性とセキュリティが、関係者に権限に合わせて情報共有するということを可能にした
- 保険契約に関して発生した請求・調査・支払いおよび関連する各国の法規などがブロックチェーンとしてレコードされるため過去のイベントを管理できる、そしてスマートコントラクトによってプロセスがイベント別に関係者に連絡が行われるため、プロセスが自動化された
- ネットワーク内のコンセンサスなしに変更・削除・追加ができないブロックチェーンの仕組みが高い安全性を実現した
- 透明性によって、間違いや汚職が減少するとともに、保険会社・ブローカー・銀行・監査人・公証人など多くの関係者内で発生していた情報確認が減少した
この中で面白いのは、スマートコントラクト上に制作された時やイベントが発生した時の関連法規が保存されるという仕組みです。国ごとに違う規制内容に、変わっていく規制というのは、複数の国にまたがった作業をしていると煩雑になることと、昔の法規にあわせて修正した部分が現在では意味がなくなっているということに気づかずに、エラー処理が動いてしまったりと、トランザクション本体に関わる周辺情報というのは管理が難しいです。
法律や法令もスマートコントラクト化されていれば、その法律を参照しているスマートコントラクトがイベントを検知してアラートを上げてくれる・・・などとなると、プロセスがとてもシンプルになりそうです。
ALICE:ホームレス支援寄付へのスマートコントラクト活用
ALICEというのは、イギリスに本拠地をおくブロックチェーンの普及団体です。彼らのホームページに、実証実験の目的や経過が記載されていますが、 多くの実証実験が現在存在しているプロセスのスマートコントラクトへの移行に主眼がおかれているのに対して、これまでの寄付の仕組みとは違う方法を模索しているのが面白いケースです。
暗号通貨を使って寄付できるような仕組みを用意している団体は多く、ブロックチェーンはめずらしいものではありません。この領域の課題は寄付をする通貨ではなく、信頼でした。日本でも寄付金詐欺のような事件が報道されていますが、国際的に寄付を行う対象を信じられないという減少が起きているようです。実際に寄付をしても、多くが管理機能に使われてしまい最終的に支援をしている人に届かない、もしくはそのプロセスが透明性にかけるというのが寄付を行う人々が信頼しきれない理由。
そこで、Ethereumを使ったブロックチェーンとスマートコントラクトの仕組みをつかって、完全に利用方法が監査かのうなチャリティの仕組みをつくろうというのが今回のパイロットプログラムです。仕組みは比較的単純で、寄付を求める団体は、街中にいるホームレス15人を仕事に復帰させるなどいくつかの段階に別れたゴールを設定します。そして、ゴールに達した場合にはスマートコントラクトによって自動的に寄付が送金されます。寄付をした側は、団体が何人再起に成功したのかという数値とそのために使われた費用というものを確認することができます。つまり、成功インセンティブのついた寄付という仕組みになります。
このプロジェクトでは、「新しい家を見つける」、「物理的・精神的なメディカルケアを手に入れる」という大きなゴールが設定されています。その中によい詳細なゴールが設定されています。「新しい家を見つける」の中には、一時的なホステルに1人移動させた場合には200ポンド、長期的な住まいの提供に成功した人をひとり獲得した場合には750ポンドなどのように詳細なゴールと、その達成状況が提供されています。
完全に不正がなくなるわけではないものの、必要な資金と利用方法と効果が3点セットで提供され、ゴールを達成するごとに寄付が送金されるという仕組みは、現在の不透明な慣行よりもよほど信頼できます。
実際、非合理的なチャリティが存続していることは社会悪になっているように思います。ベルマークのような非効率的な手法、駅前で福島を元気にしますと叫んでいる大学生。ベルマークを切り取ることにかかるコストや、駅まで叫んでいる学生に、近くのマクドナルドバイトしてもらったほうがよほどお金になるし、透明性が高いです。