コンテンツマーケティングの領域ではマルケトなどスタートアップの企業が目立ちますが、グーグルやマイクロソフトがどのような投資をしているのか確認してみました。
グーグル・マイクロソフトの申請している特許
グーグル、マイクロソフトが、評価経済社会の肝となるインフルエンサーの量的評価に関する特許を申請しています。インフルエンサーの存在は、日本でも拡大していますが、中国ではメディアの主流になりつつありますし、アメリカでもインフルエンサーを活用しないマーケティングはほぼ存在しないという状態です。ただし、無闇にインフルエンサーに金を払っても、リターンが見えにくいなど、一時期の熱狂から冷静に利用方法や妥当な報酬レベルを検討しようという時期に入っています。
ソーシャルメディアでは、消費者はコンテンツやビデオなどを最初に気づいた人として紹介したいと思っています。みんなが話題にする前に知っていた、評価していたというのは、ソーシャルメディアがなかったころから価値があることでした。一方で、ブランドのマーケターは、効果的なインフルエンサーやコンテンツを見つけて、ブランドのメッセージを拡大したいと考えています。結果的にどちらも「次に来るコンテンツ」を知りたいという需要があるんですよね。
グーグルやマイクロソフトの申請した特許は、インフルエンサーやコンテンツを見つけて、報酬を提供し、ブランドとの関係を促進するためのものです。ちょっと内容を見てみましょう。
グーグルの動き
グーグルが2017年5月に申請したTrendsetterという特許は、トレンドを作り出したインフルエンサーを点数付けします。話題になったトレンドに初期から言及していた人を探し出し、認証を与えたり、クーポンなど経済的な報酬を提供したりする仕組みです。結果的にグーグルは、インフルエンサーが、報酬を得るために、今後バズる可能性のあるコンテンツを探して自身のネットワークを使って拡大していくことを期待しています。つまり、このグーグルの特許について、あなたが紹介した場合には、私がそれによって報酬を得るという仕組みです。
グーグルの特許は、過去のデータから、あらゆるタイプのコンテンツ(ビデオ、文書、イメージなど)において、コンテンツを作ったり、コンテンツに言及したりしたX%の個人を見つけ出し、トレンドセッターであることを伝え、報酬を与えるという仕組みです。コンテンツがバズっているというのは、コンテンツのアクセス数をもとに算出します。トレンドセッターは、単に初期にバズったコンテンツを見たり紹介した人という初期を支えた人と、バズることに貢献した人を両方共トレンドセッターとしています。かならずしも、ソーシャル上で大きなプレゼンスを持っているだけでは、トレンドセッターと認識されるわけではないということになりますね。
細かなケース別に評価をする想定のようで、以下のような人たちがトレンドセッターと認識されて評価されるようです。
- バズったコンテンツをある都市で最初に紹介した人
- バズったコンテンツをある国で最初に紹介した人
- 最初にソーシャルメディアに紹介した人
- 最初にコンテンツをクリックした人
さらに、スコアされた評価と個人への報酬をするだけでなく、コンテンツを制作するブランドやマーケターに、自社のコンテンツに影響を与えそうなトレンドセッターを紹介する。トレンドセッターに、注目するべきコンテンツを紹介するなどの機能を想定しています。つまり、マーケターは、自分のコンテンツやマーケティングの目的に適したトレンドセッターに意識的にコンテンツを提供できることになります。
結果として、コンテンツ制作者は、コンテンツがどの程度バズるのかを予想することができるため、妥当なインフルエンサーの価値を見積もることができます。そして、予想はトレンドセッターのネットワーク効果が広がるごとにリアルタイムで更新されていきます。
インフルエンサーの効果は、インフルエンサーとカテゴリーの合致度によって変化します。例えば、子供向けに強いといわれているヒカキンやコドモシャチョーのようなYouTuberと一緒に小学生向けのコンテンツを作ることは意味があるでしょう。一方、同じコドモだからと未就学児向けのコンテンツパートナーシップを行っても、ほとんどの購入決定権は母親にあるので期待効果は限定的になります。同じインフルエンサーでも領域によって効果とそれに対する価値がかわるということを見積もれれば、ブランドがインフルエンサーと協業する際に、その目的にあわせて妥当な金額で交渉することができます(インフルエンサーが受けるかどうかは別問題ですが)。
インフルエンサーの選定をしていると、カテゴリー上位のインフルエンサーや自社ブランドへのロイヤルティの高いインフルエンサー以外の人と、個別に妥当な金額や活動を設定していくことは手間も時間もかかります。ブランドを新しい消費者層に知ってもらうには、有名なインフルエンサーで空爆するのもありですが、中規模・小規模のインフルエンサーと彼らの得意領域の組み合わせたコンテンツを作り、特定のグループを目指していくことも効果的です。とはいえ、効果の見えにくい領域に時間をかけるのは難しいという事になりがちです。中小インフルエンサーの効果予測が楽になると、ブランドは新しいターゲティングの方法が使えるようになりそうです。
マイクロソフトの動き
マイクロソフトが2016年2月に申請し2017年8月にパブリックに公開された特許申請もインフルエンサーを評価することをも目的とした仕組みです。インフルエンサーの行動から、インフルエンサーの専門知識や領域を判定し、評価します。マイクロソフトは、ニッチなインフルエンサーを評価することで、より正確にバズるコンテンツを予測することを目的としています。
この仕組では、コンテンツをテーマごと、コンテンツのフォーマットごとにクラスターして収集し、どのようなニッチな領域なのか判断します。この結果、そのニッチ領域の中の専門性を持った個人やトピック内で大きな役割を持っていても専門性のない個人などを選定していきます。そして、発見された専門性をもった個人の過去のソーシャルやサーチ行動を収集していくことで、個人のもつ専門性の領域を確定します。このプロセスによって、大きなニッチからスタートした専門性がその中の小さなニッチに分解されていき、それぞれに専門家が設定されていきます。
たとえば、将棋を例にとってみましょう(ニッチというと怒られそうですが)。将棋というクラスターの中で専門家をピックアップしていきます、その人たちの行動や情報からさらにクラスターが分解されて、詰将棋、オンライン将棋、著名棋士フォローアー、歴史研究、将棋漫画などそれぞれの専門家が設定されます。さらに詰将棋の中に、作問専門、回答専門のように分解されて、専門家が設定されていくというドリルダウンされていく仕組みです。
このようにして収集されたニッチ領域の真の専門家をデータベース化して、マーケターが検索できるようにするという使い方が想定されています。マスマーケティングのように多くの人に対していくメッセージ開発ではなく、効果的な超ニッチを発見することで、専門家たるインフルエンサーとパートナーシップを結びつつ、イベントなどフィジカルな経験も提供するなどが可能になるという想定です。
あまりにニッチだと、マーケティング効率は下がりそうです。とはいえ、ある疾患の国レベルでのキーオピニオンリーダー(KOL)、都市レベルでのKOL、地域でのKOLなどを選定し、それぞれに対してセールスをかけていく医療用医薬品のマーケティングという実例もあります。医療従事者は医師、薬剤師など限定された人数しかいないこと、マージンが高いことから、インテンシブなターゲティングが可能になっています。マイクロソフトの仕組みで、ニッチ領域と専門家を探すコストが下がれば適用できる業界は増えそうです。
まとめ
評価経済社会が進む中でインフルエンサーの重要性が下がることはないでしょう。同時に、妥当な価値を見積もる仕組みも必要になりますが、現在は普遍的な手法は開発されていません。グーグルやマイクロソフトの仕組みが導入されることで、コンテンツ制作、コンテンツのデリバリーなどによるROIが想定できるようになりそうです。