絶望的な日本の漁業、10年でどこまで変われるのか?

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次の改革は漁業!という農水大臣が言っているというコラムを拝見して、では現状はどうなのだろう?と調べてみると、暗澹たる状況。改革の方向は見えているらしい。

アジア成長研究所の「地方創生と水産業の改革」というレポートが網羅的にまとまっていて、いくつかグラフをお借りしながらまとめてみます。

 

 

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水産業の現状

世界漁業・養殖業の推移を見ると、漁業も中国が圧倒的に拡大中。

 

国別漁業・養殖業生産高(地方創生と水産業の改革)

 

消費についても中国が伸びている。日本と韓国がほぼひとりあたりで同量を消費。アメリカがヨーロッパより高くて驚く。肉とポテトばっかりたべているわけじゃないのか・・・そう言えば、寿司とサラダばっかり食べてますね、量は尋常ではないけど。

 

一人あたりの国別食用水産物消費量(地方創生と水産業の改革)

 

後継者の有無・・・年齢別の数字がないので、どの程度高齢化がすすんでいるのかはわかりませんが、それほど若いとも思えず。

後継者の有無別個人経営体数の割合(地方創生と水産業の改革)

 

 

ちなみに農業は?と見ると、漁業よりはマシです。良くもないのですけど。とはいえ、法人経営なども増えているようですから、改善しているということでしょうか。

 

高齢農業者の関わり方(農水省)

 

改革の方向性

そして、解決方法として、現行のTAC制度からIQ制度もしくはITQ制度へ改革とありますが、仕組みとメリットがよくわからない。まるで減反政策のようで、生産調整で改善するというロジックが理解できない

 

IQ制度(地方創生と水産業の改革)

 

 

他の資料をあたると、ITQ制度とは、国家レベル,海域レベルで,科学的根拠に基づき漁獲総量を決定したうえで,個々の漁業者に,漁獲量を割り当てること。これらの個々の漁業者へ割り当てを,漁業者間で譲渡が可能にしたこものを個別譲渡性漁獲割当(ITQ:Individual Transferable Quota)と呼ぶ。

 

ITQ制度を取り入れるメリットは大きく以下の3つのようです。

  • 他人の漁獲行動に左右されない。各人に割り当てられた量を獲ってしまえば漁は終わりとなるため、漁期中はマイペースで漁獲できる。そのため、漁獲競争に費やす労力が減り,コスト削減にもつながる。
  • 市場の動向をにらんで、高値で売れる大きな魚を選んで獲ることも可能になるなど年間の操業計画をマネージして、採算性を向上させることができる。
  • ITQ制度 の導入に合わせて,漁獲の日時・位置と品質に関しての情報システム化することで、漁獲物のクオリティが関係者に共有され、明確になることで高価格での販売ができるようになるなど、付加価値をもたらす。

 

コスト削減と単価向上という市場の仕組みがでてくることで納得できました。導入しているノルウェー、オランダ、アイルランド、オーストラリアなどの付加価値化が成功している国は、生産性も収益率も上がっているようです。

ノルウェー平均漁業利益率(地方創生と水産業の改革)

 

ではなぜ日本で進まないのか?

新潟でトライアルが始まっているが、制度導入やその他の改革が進まない理由としては、以下の2点のようです。

  • 資源衰退の理由が過剰な漁獲高ではなく中国や温暖化で説明されている
  • 赤字の事業体が多いが所得補償が蔓延しており、改革のインセンティブがない
  • 漁業権は転売できないため、後継者のいない高齢漁業者はあと数年動ければ良いとなる

全国2000以上の漁協のうち、7割は本業の漁業事業は赤字というのですから推して知るべしですね。東日本大震災直後は、漁業権の値段付けによる救済と企業参入を可能にすることが検討されていたようですが、すっかり下火の議論のようです。加えて、補助金が市場を歪めるというのはすごい効果です。

 

ここまで変わっていない環境であれば、今後の改革が進むと流通面やIT活用などいろいろな機会が出て面白そうですね。改革が進捗を見ながらですし、自分で手がける気はしませんが、近畿大学ではないですが改革にのって進出する企業があれば投資するのもありかなと。