アップル、サムソンを破ったANKERの戦略

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アンカー(ANKER)は、スマートフォンの充電ケーブルや充電バッテリーなどを販売している中国メーカーで日本でも知名度はないものの、意識せずに利用しているという人は多いと思います。本来メーカーの付属品の市場でナンバーワンブランドへと登りつめたANKERの戦略をまとめます。

 

 

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ANKERの歴史

ANKERは2011年にスティーブ・ヤンという元Googleのソフトウェアエンジニアが、アップルや他のビッグブランドが提供しているよりも妥当な価格で充電ケーブルなどのアクセサリーのラインアップが必要だと考えたところからスタートしています。スマートフォンのアクセサリーはカバーケースなど多くありますがスティーブが考えたのは、バッテリー、充電ケーブル、充電器など、スマートフォンが常にオンラインであるために必要な機器を想定しています。

アクセサリーをセグメントとして設定した背景

スティーブがこの領域に狙いを定めたのは、消費者がノートパソコンのバッテリーの代替品を求めていることに気づいたことから始まるとインタビューにこたえています。

DELLや東芝のノートパソコンのバッテリーはどこかのタイミングでバッテリーの効率が2−3年経過すると悪くなってきます。消費者の選択肢としては、DELLや東芝などのメーカーから高価な正規品を購入するか、粗悪だが安い聞いたこともない会社の作っているバッテリーを購入するか、本体を更新するかの3択しかありませんでした。

ただし、どの選択肢も魅力的には感じません。消費者は、信頼できるブランドが提供するリーズナブルな価格のバッテリーを求めているはずだと考えました。創業にあたっては、スマートフォンを中心としたアクセサリーが中心ではなくノートパソコンのバッテリーを想定していました。このように、ANKERのセグメントとニーズはこのように設定されたと語っています。

創業の場所と背景

ただし、スティーブはGoogleを含めてソフトウェアのエンジニアというキャリアを歩んできており、電気機器などハードウェアについては全く知識がない状態でした。

ただし、アマゾンのマーケットプレースを通じて中国の深圳に小規模なハードウェア製造を行っている会社があることは知識として知っていたことで、深圳でANKERを創業します。社名のANKERはドイツ語のANCHOR(船の錨のアンカー)から採られています。

しかし、ここから12ヶ月経っても最初の製品の開発は終わりませんでした。そこでスティーブはカリフォルニアから深圳に住所を移し、元Google中国のセールスディレクターだったドンポン・ジャオを採用してサプライチェーンを確立し、2012年に最初のノートパソコン向け充電器とバッテリーを開発しアマゾンでの販売を開始しました。

スマートフォン市場への参入

ANKERの最初のスマートフォン市場への参入は、HTC Sensation向けのモバイルバッテリーからでした。この時、ANKERのバッテリーは正規品よりも高い性能を実現したことで、バッテリーを酷使するテクノロジー好きな層から初期の評価を獲得します。

この時のパートナーは、PanasonicやBTRなどのアジアのバッテリーメーカーです。この段階になってやっとスティーブのチームは、スマートフォン市場に大きな可能性があることに気づき、そこからモバイルバッテリー、モバイル充電器、充電器ケーブルへと商品ラインアップの拡大へとリソースを投下します。

ブランドのコアの確立

この時点でも販売網はアマゾンに限定されており、セールスやマーケティングはよりも信頼できるプロダクトを構築するためのR&Dにリソースを集中させています。

結果として、アマゾンにおいて、高い評価のレビュー、相対的に低い価格は、妥当なモバイル・アクセサリーを求める顧客がサーチエンジンで調べると自動的にANKERに当たるという状態でした。スマートフォンなどアクセサリー関連のマーケットはブランドを確立することが難しいカテゴリーですが、スティーブは「充電時間」については大きなイノベーションが実現できるのではないかと考え、最も充電時間の短い充電器の開発をスタートさせます。

2015年にANKERは、PowerPort5を発表します。この商品は、競合他社がバッテリーの小型化を進める中で、大きいながらも5つのデバイスを同時に充電できること、さらにiPhone7を正規品の4倍速く充電できる機能を持っていました。

これは充電器の中にチップを内蔵しどのようなデバイスがつながれたとしても、そのデバイスが許容する最大の電流によって充電することで充電時間の短縮を実現していました。

また、これに合わせてパッケージについても消費者が商品を開封した時にブランドを感じられるように丁寧な作りに変更しました。スマートフォンのアクセサリーでしかないANKERの商品パッケージは、アップルやサムソンの商品のようなデジタルプロダクトのようなパッケージとして提供されることとなりました。

 

スマートフォンからの拡大

ANKERの利益の多くは未だにケーブルと充電器からなっています。ANKERのモバイル充電器の信頼性は2016年のポケモンGOブームによって、スマートフォンを屋外でチャージするニーズが拡大したことで広く浸透しています。

このブランドをベースにANKERはすでにBluetoothベースのヘッドホンやスピーカーへラインアップを拡大しています。

これらの新領域の商品については、これまでのアマゾンなどオンラインの流通だけでなく、旧来型の電気店での販売網の拡大が成功を収める理由のひとつになっているとしています。

このためにANKERは元P&Gのテレンス・リーを採用してウォルマートなどの既存流通での商品流通を2016年より拡大しています。現在、ANKERはプロダクトの領域として、Simple, Convenient, Portable, Fastという4つのバリューを顧客に伝えることを主眼にマーケティングを推進しており、今後複雑化してしまったプロダクトラインを、iPhone7, iPhone7Plus, iPhone7S, iPhone7SPlusのようにレベル感のわかりやすいプロダクトブランドラインへと再構成する予定です。

同時にスティーブは、アマゾンがANKERの成長に果たした重要な役割を昨年のアマゾンのカンファレンスで発表しています。ANKERは初期に自社で流通網を構築しようと計画したことがありました。

しかし、アマゾンがファイナンス、フルフィルメント(受発注と物流)に関して、はるかに安価で信頼性の高いサービスをすでに提供しており、アマゾンプラットフォームを利用することで、スタートアップが直面する物流という障壁を越えることができたと語っています。実際に、今現在も95%のANKERの商品はアマゾンのフルフィルメントサービス上で管理されています。

Day One: Stories of Entrepreneurship | Steven Yang, Anker Technology

 

ANKER SWOT分析

強み Strength

・高い信頼性とR&D技術

・グローバル基準と中国の生産性からくる価格優位性
・スマートフォンのコアユーザーからの高い評価

・EC上でのオンラインマーケティングの経験

 

弱み Weakness

・コアユーザー以外で低いブランド認知

・複雑な商品体系

 

脅威 Thread

・アップル、サムソンなどのブランドのアクセサリー事業の拡大
・Bose, Harmanなど高いブランド知名度を持つブランドとの競合

 

機会 Opportunity

・スマートホーム、スマートオートなどスマートフォンの技術の水平展開
・スマートフォンのエコシステム内での重要性、用途の拡大

 

ANKERの今後

今後、スマートフォンから、スマートホーム・スマートオート(自動車や住宅)へと拡大することを想定しています。

 

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