中国でもっとも成功している経営者のひとりハイアールCEOの推薦する5冊

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ジャン・リューミン(張瑞敏)は、グローバルでもっとも成長している家電メーカーであるハイアールのCEOです。日本でも三洋を買収したことで有名になりました。 ジャン・リューミンが、ハイアールのリードするにあたって5冊の本を参考にしていると語っています。

 

ジャン・リューミンは1984年25歳の時に、チンタオ(青島)にある経営不振の国営家電メーカーの経営者になり、グローバル展開する企業へと育てました。彼は同時にマネージメントやイノベーションに関する読書が好きなことでも有名です。アメリカ経営学学会は毎年年次総会に影響力の強い経営者をキーノートスピーチに招いており、ジャン・リューミンは2013年にキーノートスピーチをしています。キーノートスピーチを聞いた多くの人が、GEのジャック・ウェルチやP&GのA.G.ラフリーのような哲学をもった経営者が現れ、中国企業が世界の工場から知的社会へ移行したと言っています。

 

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ジャン・リューミンの経営哲学とは

 

中国企業がイノベーションを起こすことがめずらしくなくなった昨今ですが、ジャン・リューミンはかなり初期のことから、はっきりとした経営哲学をハイアール内で徹底しています。家族主義や国に報いるなどとても中国的なものもありますが、ジャン・リューミンが提唱したものとしてユニークなものは主に2つあります。

 

企業内に市場競争と市場取引という市場原理を取り入れる仕組みの導入

ハイアール内で組織されたファンクション単位の部署において、川上の作業を行う部署を仕入先、川下の作業を行う部署を顧客、自部署の作業を商品とみなして、市場競争力があるのか競争させるという仕組みです。工場の製造ラインであれば、組み立て前工程を仕入先、後工程を顧客、作業内容を商品としてコストと利益からなる採算管理を部署単位で行っていきます。

 

斜面球体理論による基礎力とイノベーションの両立

企業を斜面に置かれたボールにたとえて、市場競争により企業はなにもしなければ斜面を滑り落ちていくという前提に立ちます。これを防止して斜面を登り成長するためには、市場原理を取り入れることで強化される基礎的な企業活動がボールを現在地に維持し、イノベーションが斜面を登らせるという2つの力が同時に必要だと説いています。

 

初めて聞いたときにはわかったような、わからないような哲学だなと思ったのですが、製造工場としてしか意識されていなかった1990年代の中国において、イノベーションを核において戦略を設定しているというのは先進的だったのだろうと思っていました。その後、ジャン・リューミンがインタビューで参考にしたと言っている5冊の本をみて、深い戦略の理解のもとに作られた理論だということを理解しました。

 

 

経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究 J.A.シュムペーター

Business Cycles: A Theoretical, Historical, and Statistical Analysis of the Capitalist Process by Joseph Schumpeter

shumupeter

20世紀初頭にイノベーションという概念を作り出したのがJ.A.シュムペーターです。需要と供給が均衡していることが最適配分と考えられていた当時に、均衡を停滞であると定義して、イノベーションにより創造的な破壊により経済成長を実現しなければならないと説いています。

21世紀にイノベーションやディスラプションなどの本が未だに出ている中で、100年近い昔にすでに語っていたという異能の経済学者です。私は経営学や経営関連の書籍は比較的読んでいますが、シュムペーターの本は聞いたことはあっても実は未だに読んでいません、とても難解な本だと冒頭を斜め読みした程度です。

ジャン・リューミンは、この古典をハイアールのイノベーションという企業文化を説明するために引用しています。シュムペーターはイノベーションを生産方式、原料、組織や資本などの要素を再構築することだと定義しており、競合関係にある企業はどちらも同じリソースにアクセスすることができるため、イノベーションとは同じリソースを活用しながら差別化をはかっていくこととなる。だから、基礎力とイノベーションの2つの力が必要と説明しています。

経営企画やコンサルティングをしていると、同じ競争条件の中で差別化することができるのか問い続けることが多く、コモディティ化しているカテゴリーで細かな差別化に苦心することとなります。ジャン・リューミンはそもそも競争関係にある企業は同じリソースにアクセスできることを前提の上で、イノベーションを目指すというのはとてもユニークですがプラクティカルな哲学です。

 

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき クレイトン・クリステンセン

Built to Last: Successful Habit of Visionary Companies by Clayton M. Christensen 

innovation

イノベーションに関してもっとも有名な書籍です、日本語のタイトル名が原題よりもうまく内容を表現していたのも理由でしょうか。

アマゾンのジェフ・ベゾズの推奨する本として、次作のイノベーションの解をより実務に使いやすい本として紹介しています。

この本は イノベーティブな会社ほど 破壊的なイノベーションにより衰退するということを豊富な事例を紹介しています。

ジャン・リューミンは、リーダーの役割は長期的な成長のために官僚化しやすい従業員の企業家精神を維持することだとこの本に触れていっています。そして、それはリーダーの個人的資質によるものであってはいけない、会社のシステムとして実現されるべきだと言っています。

 

みんな集まれ! ネットワークが世界を動かす クレイ・シャーキー

Here Comes Everybody: The Power of Organizing Without Organizations by Clay Shirky

ジャン・リューミンは、ハイアールの戦略において何冊かの本をソートリーダーシップ(Thought Leadership)として触れています。ソートリーダーシップとは、特定の分野において将来を先取りしたテーマやソリューションを示唆することを言います。

この本では、インターネット上のソーシャルメディアやウィキペディアなどのデジタルによって実現された組織化されない組織が、社会や企業をどのように変えていくのか示した本です。

いままでは結束できなかった人たちが集結する場を持つことでおこることは、市民言論・テロ・オープンイノベーションなど多くの環境を変えていくということを予見しており、殆どが実現しています。

ジャン・リューミンは、この本を参考に、ピラミッド型の組織ではなく企業内に市場競争と市場取引という市場原理を取り入れることで、セントラライズされない7名程度の小集団を基軸とした組織体系を構築しています。

 

 

ロングテール「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 クリス・アンダーソン

The Long Tail: Why the Future of Business Is Selling Less of More by Chris Anderson

クレイ/シャーキーとともにもっともハイアールの戦略に影響を与えた人物として、クリス・アンダーソンをジャン・リューミンは上げています。

彼の書いたロングテールは、いまとなっては一般名詞となったキーワードですがヒーロープロダクトやひとつの商品の大量生産に集中していた企業の戦略を大きく変えた、まさにソートリーダーシップという本になります。

ロングテール理論はインターネットの登場により、ヒット商品だけでなくニッチ商品についてもそれを求める消費者へと届けることが可能になったこと、同時にニッチ商品の存在を知らせるマーケティングコストが大きく減少したことをもとに、ニッチ商品を集積することで大きな利益を上げることができるということを説明したものです。

この本によりロングテール理論が一般化するまでは、パレートの法則やそれを分析するデシル分析がもてはやされており、20%の商品や顧客が80%の利益をもたらしているということで、ヒット商品や上位顧客を考えることに主眼が置かれていました。

ただし、そのためにつぎ込まれるマーケティング費用や顧客ベネフィットのための費用を考えると、デジタル・プラットフォームを活用することによりロングテール側の80%を収益源とすることができるという考え方です。

アマゾン、iTUNESなどが事例になりますが、アリババや楽天のようにモールに出店するお店をロングテールとしてとらえるなど、企業戦略と投資の優先度を大きく変えた本となります。

 

MAKERS 21世紀の産業革命が始まる クリス・アンダーソン

Makers: The New Industrial Revolution by Chris Anderson

ロングテールと同じように、クリス・アンダーソンの本になります。

ロングテール理論はアマゾンを事例に取ることが多いですが、ニッチ商品の集積がヒット商品を超える収益をもたらすということで、アマゾンのような流通業のあり方を変えただけでなく製造業に当てはめたのがMAKERSという本になります。

結果として、多品種少量生産やマスカスタマイゼーションという製造業のあり方も変えていきました。

ジャン・リューミンも、伝統的な製造業であったハイアールを、サービス提供をベースとした会社へと変化させるハイアールのイノベーションのディレクションを与えた本として取り上げています。

 

 

まとめ

以上のように、ジャン・リューミンの推奨する本は、どれも簡単にビジネスに利用できる本ではなく、経済や経営哲学に触れたものになります。これを消化した上で、ハイアールのユニークな制度が導入されたということで非常に参考になる推奨する本と感じました。

ソートリーダーシップは、日本でもバズワードとしてビジネスの現場でよく触れられますが、その言葉や原理をそのまま導入するのではなく、ハイアールの経営や人事制度にどのような変化を与えるべきなのか考えて導入したということで、バズワードに踊らされない経営ということを理解できます。

 

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